借入による不動産購入で相続税節税はダメなのか?

(注)執筆当時の法律に基づいて書いていますのでご利用は自己責任でお願いします。

相続・贈与

2022.05.02


国税”伝家の宝刀”総則6項とは?

先日、不動産の相続税評価を巡る注目の判決が出ましたので、今回はその内容
についてお伝えします。

相続税や贈与税を計算するためには、財産を時価で評価する必要があります。評価方法は、財産評価基本通達という通達に定められています。

例えば、土地であれば路線価に基づいて評価する、建物は固定資産税評価額に基づいて評価する、といった基本原則は、この通達で決められています。

ただ、上記の通達には特例があります。
『この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。』

これは、いわゆる総則6項といわれるもので、原則通りの通達による評価額が不適当と判断された場合に、その通達評価額を否認するために国税当局が適用することができる規定です。

今回の裁判は、この総則6項の適用の是非を巡る初の最高裁判所判決となります。

取引の概要

問題となった取引の概要はこうです。

被相続人は、2009年に約13億8,700万円(うち借入約10億5,500万円)で2つの不動産を購入します。

2012年、被相続人が亡くなり、それを相続人が相続します。相続人は、通常の評価通達(路線価)に基づいて、その不動産を約3億3,000万円と評価し、相続税の申告(相続税0円)を行いました。

なお、相続発生から9ヶ月後、相続税の申告期限前に、相続人は相続した2つの不動産のうちの1つをほぼ購入価格に近い金額で売却しています。

その後、税務調査が行われ、2016年、国税当局はこの案件に総則6項を適用、通達評価が低すぎるため、不動産鑑定士による鑑定評価額である約12億7,300万円で評価すべきとして、約3億円の追徴課税が行われました。

本案件は、その処分を不服として争われた裁判です。

東京地裁、東京高裁では納税者が敗訴し、最高裁に上告していました。

判決は・・・

結果は、1審、2審に引き続き、納税者の敗訴となりました。

最高裁は、基本通達による評価額が鑑定評価額より低すぎる、というだけで総則6項を適用するのは、平等原則に違反するとしながらも、相続税の節税を意図して、借入による不動産購入を行ったという納税者の行為を考慮した結果、最終的には、国税当局による総則6項適用を認めました。

恐らく、個人的には以下のような事情が、最高裁の判断に影響しているように思います。

・不動産購入により節税した相続税額が多額(約3億円)、結果として相続税を全く支払っていない
・不動産を購入したのは、被相続人が90歳前後という高齢になってから
・相続税の申告期限前に不動産を売却、実質保有期間は約3年という短期間(購入した2棟の不動産のうち、1棟は売却せず保有継続していますが)
・恐らく、本案件は金融機関による提案スキーム(ただ単に相続税の節税というだけでなく、金融機関も利益を享受している)
・金融機関の稟議書に「相続税対策が目的」といった趣旨の記載あり

この判決を受けて、今後、通達の改正などが行われる可能性もありますが、そもそも総則6項は、過去11年間で9件しか適用されておらず(日本経済新聞調査)、通達評価額と鑑定評価額に乖離があるというだけでは適用できない、と最高裁が判断したことからも、あまり過度に心配しすぎる必要はないように思います。

ただ、最高裁が正式に判決を出したことで、今後の税務調査に影響が出る可能性もあります。上記のような、経済合理性が説明しにくいような案件についての否認は増えるかもしれません。

しばらくは、国税当局の動きなどを注視する必要がありそうです。

この話が経営者・資産家の皆様のお役に立つことができれば幸いです。

メール通信№794


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