M&Aで節税を企む~買い手編

(注)執筆当時の法律に基づいて書いていますのでご利用は自己責任でお願いします。


譲渡対価を下げて役員退職金支給

例えば、時価純資産6,000万円の会社に営業権を4,000万円として、トータル6,000万円+4,000万円=1億円にて、会社を株式譲渡で売却したとします。

(1)
売り手株主個人の税金は、1億円×約20%=約2,000万円となります。

しかし時価純資産6,000万円のうち3,000万円を、売手社長を中心とした家族役員に退職金として支給後、譲渡対価をその分下げて1億円-3,000万円=7,000万円で売却した場合の税金はどうなるでしょうか。

(2)
社長含む家族役員退職金3,000万円→無税(厳密には勤続年数等による)譲渡対価7,000万円の税金は、7,000万円×約20%=約1,400万円となります。

(1)ー(2)=2,000万円-1,400万円=600万円の売り手節税となります。

一方で、買収前に役員退職金を支給するスキームを行っても、買い手が実質負担する金額は1億円で変わりません。

しかし、税務会計上は、買収会社の費用項目に「役員退職金3,000万円」が計上されます。

役員退職金が法人税法上の損金算入限度額を超えていないとすると、「3,000万円×実効税率30%=900万円」の節税効果が買い手に産まれます。

つまり、M&Aでは「王道」の節税対策といえる「役員退職金スキーム」を使うと、売り手も買い手もハッピー節税となります。

事業譲渡による営業権償却

買い手にとって「株式譲渡」であると、譲渡対価やM&A業者への成功報酬等は株式取得費用となり償却不可の資産計上で「一切経費になりません」が、「事業譲渡」であると、「譲受対価-譲渡純資産時価」部分がいわゆる「営業権」となり、「5年間で均等償却」となります。

更には、成功報酬等についても、営業権対応部分等は「減価償却を通じて費用化」されます。

買い手にとっては、「営業権」部分や「成功報酬等の一部」が損金算入される点で、事業譲渡に大きなメリットが生ずることがあります。

更に付け加えると、譲受資産である機械装置等は「中古資産の耐用年数」が使えます。

つまり、法定耐用年数より短い期間で償却が出来ることになります。

事業再編投資損失準備金制度の活用

令和3年度税制改正にて新設されその制度も残しつつ、令和6年度税制改正にて新たにバージョンアップした新制度もスタートしました。

2027年3月31日までに事業承継等事前調査(実施する予定のデューデリジェンスの内容)に関する事項が記載された経営力向上計画の認定を受けた中小企業者等が、株式取得によってM&Aを実施する場合に(取得価額10億円以下に限る)、株式等の取得価額として計上する金額(取得価額、手数料)の70%の金額を準備金として積み立てたときは、その事業年度において課税所得から損金算入することができる制度です(益金算入開始までの据置期間5年)。

また、過去5年間にM&Aを実施した中堅・中小企業が、産業競争力強化法において新設する特別事業再編計画の認定を受けて株式取得によるM&Aを実施し、認定後1回目のM&Aにおいては株式取得価額の90%、2回目以降は100%の金額を準備金として積み立てた場合に、その事業年度において当該金額を課税所得から損金算入することができます(益金算入開始までの据置期間10年)。

今回の話に興味がある方は下記もご参加ください。

■M&Aで「節税を企む」| 開催日時:9月3日(火)13:30~
https://forms.gle/c3qzKcieCW8nQAoYA

この話が経営者・資産家の皆様のお役に立つことができれば幸いです。

メール通信№913


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