『相続放棄』はすべての経営者必須の知識

(注)執筆当時の法律に基づいて書いていますのでご利用は自己責任でお願いします。

相続・贈与

2011.08.08


相続税を払う人より相続を放棄する人のほうが多い

国税庁(平成20年)及び最高裁司法統計資料(平成21年)によると、相続税の課税対象となる「課税相続人=139,695人」で、相続を放棄した「相続放棄件数=156,419件」だそうです。

つまり、今や相続税を課される人より相続を放棄する人のほうが多いのです。
ちなみに、相続放棄は近年急増していて、

平成元年43,626件

平成10年83,316件

平成21年156,419件 となっています。

相続を放棄する人の理由は様々ですが、単純には、「亡くなられた被相続人の財産<負債」の場合に、通常、相続放棄することになります。
後述しますが、ここでいう負債には「保証債務」を含めて考えなければなりません。

常に最悪の事態を想定するのが経営者の仕事とすると、「相続放棄の概略」を知っておくということは、大切な事ではないかと思います。
これは、現在の会社の財政状態が「良くても」、「悪くても」、だと思います。

借金は法定相続分で「当然に」相続される

意外と知られていないのが、借金と相続の関係です。
被相続人が銀行などから借金をしている場合でその借金を子供Aが相続する、と遺言や遺産分割協議で決まったとします。

では、この家族間での取り決めに銀行などの債権者は従わなければならないのでしょうか?

答えは、「否」です。

つまり、銀行などの債権者は家族間の取り決めを無視して、「相続人に対して法定相続分通りに請求」することができるのです。

住宅ローンでは通常団体信用生命保険に加入しているので、そもそもこういった問題はでてきませんが、被相続人が個人事業をしている場合などでは、要注意です。
この場合は、銀行に「免責的債務引受」をしてもらい、事業承継予定者のみが債務者となるように、ネゴすることが重要です。
更には、ここでいう借金には実は、「保証債務」が含まれるのです!

ということは、被相続人が他者(社)の借入などに保証行為をしていて、その他者(社)が返済不能に陥った場合も同様に、銀行などの債権者から「相続人に対して法定相続分通りに請求」されるということです。

これは相続があってから○年後に請求されるというようなケースもあります。

友人や知人、親戚等他の事業者に対して保証行為をしていることが多い「中小企業経営者」にとっては、この保証債務は特に影響が大きいです。

相続放棄は3ケ月以内だが伸長可能

そこで、被相続人の財産や負債があやふやの場合は、まず被相続人の保証行為を含めた負債を徹底的に調べることが重要です。
そして、「亡くなられた被相続人の財産<負債」と想定される時には、相続放棄を検討してください(未実現の保証債務をどう考えるかは、個々のケースによります)。

相続放棄をする場合は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ケ月以内」に家庭裁判所に対して申述をしなければなりません。

この3ケ月以内というのは実行する場合には案外短いもので、この間に保証行為を含めて被相続人の負債を全棚卸しなければなりません(東日本大震災関係については平成23年11月30日まで延長)。

負債調査のやり方は色々あるでしょうが、個人信用情報機関(株式会社日本信用情報機構、全国銀行個人信用情報センター、株式会社シー・アイ・シー)に問い合わせてみることも大切です。

また、この3ケ月というのは期間伸長も可能となっていますので、「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立書」を参考にしてください。

相続人の順位変更には要注意!

一方、この相続放棄は一身専属権となっていて、相続人単独で行うことができ、そのことを他の相続人に通知する必要はありません。

相続放棄の効果としては、「初めから相続人でなかった」ことになります。

通知義務が無く初めから相続人でなくなるということは、例えば、「父が亡くなり相続人である母と子供が相続放棄をした場合、通常祖父母は既に亡くなっているでしょうから父の兄弟姉妹が相続人」となり、「その兄弟姉妹が相続放棄していないなら父の多額の負債を背負う」可能性が出てきます。

相続放棄をした場合には、こういった相続人の順位変更が生じるので要注意です。
この場合の対策は、父の兄弟姉妹も含めて相続放棄を実施すれば良いでしょう。

ちなみに他の相続人が相続放棄しているかどうかを確認することが出来ます。

手続きは、簡単かつ格安

相続放棄の手続きは、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、主に以下の書類等をそろえて申述することになります。

・相続放棄の申述書
・収入印紙800円及び予納郵便切手80円×5枚(裁判所によって多少異なる)
・申述人の戸籍謄本
・被相続人の除籍謄本(改製原戸籍)
・被相続人の住民票除票

申述書類について詳しくは裁判所のHPよりご確認下さい。

流れとしては、相続放棄の申述書を家庭裁判所に提出後、1週間ほどで「相続放棄の申述についての照会書」が郵送されてきます。
この照会書に回答し家庭裁判所に返送します。

2週間ほどで「相続放棄申述受理通知書」が家庭裁判所から郵送されてくれば、手続きは終了です。

概ね1ケ月程度ですべて終わります。
相続放棄の手続きはそれほど難しくありません。

また、費用についても上記に書いたとおり格安です。

相続財産には手をつけるな!

相続放棄の手続き自体は簡単かつ格安なのですが、実は、相続放棄の実行には陥りやすい落とし穴があります。

それは、相続財産に対して、いわゆる「処分行為」をしてしまうことです。

相続放棄をする予定の者が、相続財産について消費や売却等の処分行為をしてしまうと、もう相続放棄をすることが出来なくなります。
つまり、処分行為=相続を承認したものとみなす、となるのです。

この処分行為には、「債権の取り立て」や「株主権の実行としての代表取締役の変更」なども該当しますので注意してください。

ただし、通常の葬儀費用の支払い等は処分行為に当たらないとされています。

相続放棄を検討されている方は、くれぐれも、「相続財産には手をつけない」ということを覚えておいて下さい。

相続放棄をしても生命保険はもらえます

「相続放棄をしたら生命保険金はどうなるのですか?」、という質問を受けることがあります。

この場合、受取人が誰であるのかを確認することが重要です。

「相続人が受取人」となっている場合には、生命保険金は相続財産ではなく受取人固有の財産とされ、例え相続放棄をしていても生命保険金は満額受け取ることができます。

この場合、相続税法上は生命保険金をみなし相続財産として課税対象に含め、「500万円×法定相続人数(放棄者含む)」の非課税枠は、相続人ではないため適用不可となります。
ややこしいですが、相続放棄者は非課税枠の適用は受けられないのですが、他の相続人が非課税枠を計算する時には相続放棄者も含めて計算できるのです。

とはいえ、相続財産が「5,000万円+1,000万円×法定相続人数(放棄者含む)」という基礎控除以下である場合には、そもそも相続税はかかりません。

一方、「被相続人が受取人」となっている場合には、他の預金等の被相続人の相続財産と同じ取扱いとなり、相続放棄者は生命保険金を受け取ることができません。

この話が経営者の皆様のお役に立つことができれば幸いです。

メール通信№244


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