認知症対策としての家族信託のススメ

(注)執筆当時の法律に基づいて書いていますのでご利用は自己責任でお願いします。

相続・贈与

2013.07.08


83歳地主Aさんのケース

肉体的にも精神的にも今は元気といえる地主家系のAさん83歳ですが、奥さんを早くに亡くされているので、推定相続人は60歳の長男と58歳の長女です。

多くの土地を所有しているAさんですが、地主家系ということもあって、土地については長男が主になって承継していくことに、家族全員が納得しています。
しかし、長女にほとんど財産が渡らないということには、長女含めて家族全員がなんとかしたいと考えていますが、Aさんの資産のほとんどが土地のため一部売却などが今後必要と考えられます。

また、Aさんの相続税を試算すると、平成27年の相続税増税後のシミュレーションで、数千万円の納税となっていて、キャッシュが足りない状況です。
早急に、生前贈与や不動産の買換えなどの資産の有効活用・相続対策が必要な状況です。

もし、この状況でAさんに認知症(ボケ)の兆候が出始めたら・・・。

成年後見人にはデメリットも

認知症となってしまったら、Aさんは、ご自身の不動産を売却することは、通常出来ません。
もちろん、相続対策で不動産を購入する又は建てるということも、同様に出来ません。

認知症となった場合には、正式には、Aさんに成年後見人をつけることになります。
これには長男や長女がなってもいいですし、司法書士などの専門家にお願いしてもいいです。

しかし、成年後見人というのは、「被後見人=Aさんの保護だけ」を目的とする制度ですので、その趣旨に反する一切の支出が禁じられています。(この部分があるため、現在の成年後見制度は実務上かなりいびつなものになっている側面があります。早急な制度変更等が望まれます。)

自宅以外の不動産売却は認められやすいですが、未利用地の有効活用として、マンション建設をしたり、不動産の買換えを行ったりする事は通常できません。
リスクの少ない駐車場にするための投資も多分、裁判所は認めないでしょう。

ちなみに、範囲外の支出を行った場合には、成年後見人は善管注意義務を問われ、損害賠償や刑事上の責任までをも問われる可能性があります。
そもそも、和の精神が基本な日本の家族社会に、法律論(この場合、成年後見制度であり家庭裁判所)を持ち込むことがナンセンスなのだと思います。

こういったケースで成年後見人をつけるとデメリットが大きいということを知っておいて下さい。(もちろん、ケースによっては成年後見人が有効に機能するケースもありますし、また、成年後見人をつけざるを得ないケースもあります。)

認知症対策としての家族信託のススメ

認知症となってからでは遅いですが、まだ元気なAさんの場合、どうすればいいのでしょうか。

ズバリ、「家族信託(成年後見信託)」を契約するのです。
(契約ではありませすが、実質は信じて託すという信頼関係が基本の制度です。)

信託とは、自分の財産を信じる誰かに託す、ことです。

今回のケースでは、以下のように設計して、信託契約を委託者と受託者で結びます。
委託者:Aさん
受託者:長男
受益者:Aさん(Aさん死亡時に信託終了として、信託財産の帰属先を長男にしておく。また、信託目的に相続対策などを盛り込む。)

上記では、Aさんが自身の土地を長男に託す(名義変更)のですが、そこから上がってくる収益はAさんが変わらず受け取ります(自益信託)ので、贈与税などの課税は行われません。
代わりに、Aさんが亡くなった時には通常通り相続税の課税対象となります。

また、不動産取得税はかかりませんが、信託の登記として4/1000又は3/1000の登録免許税がかかります。
家族信託を利用するには、信託登記費用を除くと、財産額にもよりますが、信託契約書作成などで数十万円ですみます(司法書士への支払)。

認知症になる前に、成年後見ではなく、家族信託をぜひご検討下さい。

ボケる前に信託、と覚えておきましょう。

家族信託を一工夫

上記のような信託契約を結ぶと、Aさんが認知症になったり植物人間になったりしても、受託者である長男は、信託目的に従って信託財産を管理・運用・処分することが出来ます。

つまり、Aさんが亡くなる最後の日まで相続対策を行うことが出来るのです。

信託というのを初めて聞かれた方は、本当にそんなことできるの?と思われるかもしれませんが、平成19年に改正信託法が施行され文面上実現可能となり、更にその後に実際何人もの方が実施されて、現在においては「この信託制度というのは実行可能な制度」となっています。

最後に、今回の事例で、長男にすべての財産を任せるのが不安という場合の対処法を記します。

そのような場合には、「専門家(税理士や司法書士等)を信託監督人」として信託契約の中に盛り込むといいでしょう。
その分、専門家への信託報酬は発生しますが、長女などには受け入れやすくなるのではないかと思います。

家族信託は色々なケースで、今まで解決できなかったことに対するアンサーを提示してくれます。

「相続対策で信託の検討は必須」という時代になっています。

この話が経営者・資産家の皆様のお役に立つことができれば幸いです。

メール通信№343


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