借金して賃貸アパートを建てると、本当に相続税対策となるのか?

(注)執筆当時の法律に基づいて書いていますのでご利用は自己責任でお願いします。

相続・贈与

2011.09.12


借金して賃貸アパートを建てましょう、という悪魔の囁き

金融機関や不動産会社などから、「このままいけば息子さん達が大変ですよ、借金して賃貸アパートを建てましょう、相続税の節税になりますよ」と勧誘を受けることがあります。

色々と懇切丁寧に対応してくれるでしょうが、こういった勧誘を行ってくる人たちは、例えそれが金融機関であろうと大手不動産会社であろうと、総じて自己の利益が最大の目的です。

中には、自分の孫以上に親切に接してくる担当者もいるようです。

そして多くの場合、この先10~20年ほどの収支シミュレーションを持ってきますが、実態とかけ離れたものも多いです。

例えば、
・利益が出れば税金がかかるのですが、それが計上されていない
・15年もたてば色々と手直しが必要ですが、修繕の見積もりが甘い
・そもそも収入単価である家賃が10年たっても下がっていない
・修繕の見積もりが甘いにも関わらず、10年たっても入居率が100%
・減価償却費や金利の計上金額が間違っている

賃貸アパートの収支シミュレーションは、嘘とまではいいませんが、かなりいい加減又はかなり甘いものが多いです(最近では逆にかなり精微で厳しめのシミュレーションを作ってくる建設会社等もありますが)ので、もしそのような収支シミュレーションを提示されることがあれば、ぜひ顧問税理士にその妥当性を検証してもらうようにしてください。

具体例

では、実際以下のようなケースで、「借金して賃貸アパートを建てた」時に、どのような相続税の変化があるのかみてみましょう。

〔前提〕
預金 5,000万円
土地 1億円=相続税評価額
合計 5,000万円+1億円=1.5億円

上記のような相続財産をお持ちの方が、自分所有の土地の上に「5,000万円の借金をして賃貸アパートを建てた」とします。

〔実行直後〕
預金 5,000万円
土地 1億円×(1-0.7×0.3)=7,900万円
賃貸アパート 5,000万円×0.6×(1-0.3)=2,100万円
借金 △5,000万円
合計 5,000万円+7,900万円+2,100万円-5,000万円=1億円

不動産評価は確かに下がる

賃貸アパートを建てる前には、相続財産が1.5億円だったのですが、アパートを建てることによって、1億円に減少しています。

相続税率を30%とすると、(1.5億円-1億円)×30%=1,500万円の相続税節税となります。

相続税が安くなった理由は、2点。

1.土地の評価が概ね20%ほど下がったこと
2.建物の評価が概ね50%ほど下がったこと(借金は節税対策とは無関係となりますが、これは後述します)

相続税の評価においては、
土地(貸家建付地)は、自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合)
賃貸アパート(貸家)は、固定資産税評価額×(1-借家権割合)
(厳密には、上記算式には賃貸割合が加味されます。)

借地権割合は地域によりますが賃貸アパートの場合は概ね0.6-0.7、借家権割合は0.3となります。
また、アパートの固定資産税評価額は、概ね建築価額×0.6です。

つまり、賃貸アパートを建てると幾分土地が自由にならない部分を考慮して、若干評価減を認めてくれていて、更には賃貸アパートについては固定資産税評価額が建築価額の6割程度に設定されていること等が大きく影響して、大幅な評価減を認めてくれているということです。

20年以上前のビジネスモデル

しかし、ここで考えないといけない事実が最低でも7つあります。

1.不動産投資は原則長期戦だという事実
2.デフレ下でもデフレしないのが借金だという事実
3.日本は人口が減少していくという事実(世帯数も2015年には減少予定)
4.日本は住居が供給過剰であるという事実
5.地価はここ20年間下がり続けているという事実
6.不良入居者が急増しているという事実
7.現在は史上最低金利であるという事実

地価が上昇し、入居率についてもそれほど心配が無かった20年以上前では、(素人)賃貸マンション経営というビジネスモデルは、そう悪いものでもなかったのだと思います。

しかし、現在では、入居者の質の低下など、簡単にアマチュアが参入できるような業界ではなくなりました。
それこそ、プロが必死になって、入居率改善のための広告や掃除などの小回り、悪質入居者のリスク回避策など、日々工夫改善を積み重ねています。

よくある賃貸アパートの例は、「相続税の節税にはなっているのかもしれないが、それ以上に毎月の収支が赤字で、節税額以上に財産がマイナスになった」というものです。

借金はする必要なし

更にここで注目したいのは、「借金をしたら相続税の節税となるのか」です。

先ほどの例で、借金をせず自己資金5,000万円で同様の賃貸アパートを建てた場合、というのを以下に計算してみました。

預金 5,000万円-5,000万円=0円
土地 1億円×(1-0.7×0.3)=7,900万円
賃貸アパート 5,000万円×0.6×(1-0.3)=2,100万円
合計 0円+7,900万円+2,100万円=1億円

冒頭の例でも合計は1億円でしたので、借金をしてもしなくても、相続税は変わらないということになります。

つまり、「借金をしたら相続税の節税となるのか」というのは、嘘だということになります。

過度な節税対策は失敗する

また、相続税の節税対策の歴史を振り返ると、「過度な節税対策は大失敗につながる」ということも少し付け加えておきます。

賃貸アパートにしても、これだけ地価が下がり入居率が低下してくると、借金返済に四苦八苦しているというケースも散見されます。

また典型的なのが、平成22年税制改正によって、「小規模宅地の評価減特例」が変更されたことです。

改正前では、被相続人所有のアパート(マンション)に被相続人が居住して、一定の要件を満たすと、その敷地全体の内240平米までが80%評価減されました。

巷で良くある、マンションの最上階にオーナーが住んで、残りを賃貸に回しているというケースです。

改正後の現在では、これに規制が入り、居住用や賃貸用などが混在している場合には、用途ごとに適用要件を判定するようになり、ケースによっては大幅増税となりました。

このような「相続税の節税対策封じを目的とする税制改正」の例は、過去に幾度もあります。

相続税で大事なのは、どう分けてどう納めるか

「借金して賃貸アパートを建てると、本当に相続税対策となるのか?」というタイトルについてまとめると、少なくとも自己資金があれば、わざわざ金利を払ってまで、相続税対策として「借金をする必要は全くない」ということになります。

また、あくまで一般論ですが、現在では「相続税対策で賃貸アパートを建てるというのはオススメではない」ということです。
(これには、今後ますます中古市場が活性化してくるという事情もあります。)

相続で本当に大事なことは、節税ではなく、「いかにもめない様に財産を分けることができるのか(遺産分割)ということと、相続税をどのように納めることができるのか(納税資金)」ということに尽きます。

節税対策が、このような「遺産分割対策」及び「納税資金対策」より、優先順位が上がるということはありません。

この話が経営者の皆様のお役に立つことができれば幸いです。

メール通信№249


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